「だから荒野」「私の愛した大統領」 【2013.10.29 Tuesday 17:44】 |
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人間的な魅力ってのは、 かっこいいだけじゃないし、 正しいだけでもないし、 だからといって破天荒なだけでもないなあ。 私は多分、 人の必死な感じとか、 外側からの影響を受けて、 ちょっとずつ内側を変えていくプロセスとか、 寛大さとか、 そういうものがちょっとでも見えた時に、 いいなって思ってしまうことがある。 桐野夏生さんの小説「だから荒野」の 主人公、主婦の朋美は、 2人の息子からは、 「きもい、マジ早く死んで」 とか、 「金だけくれよ」 とか言われる。 夫は自分の楽しみを最優先にする 身勝手極まりない男。 誕生日の日のあまりに理不尽な家族に 頭にきて家を出る。 もちろん、誕生日の日の出来事はひどい。 でも、その日だけではなく、 積み重なってきたものがあって、 爆発するのだ。 レストランのテーブルから立ち上がる 朋美の様子を読んだ時、 もうやめた!っていう彼女の声が 聞こえた気がした。 これまでも、子どもや夫には、 彼女なりの方法で対抗してきた。 たとえば、 インターネットでゲームしている息子の様子は 見なかったことにしたり、 ご飯を作っても食べないからサボったり、 その方法は果たしてどうなの?というやり方だったけど、 でも、家族の彼女に対する扱いは 本当にひどいから、 それも仕方なかったと思う。 でも、それでもあふれてしまった怒りは、 家族を捨てるという行動になる。 ただ、この瞬間までは、読みながら、 朋美に同情はできても、 魅力は感じられなかった。 家族と決別してから、 だんだんと引きつけられていった。 車で宮崎をめざす彼女。 道中で人を知り合い、 だまされる経験があり、 そして、長崎に落とされた原爆の語り部ボランティアで 核廃絶を訴える山岡との出会いがある。 それまでは家族の中にいても孤独だった。 「誰もわたしの気持ちなんかわからないし、 わかろうともしないってことに気付いたから」 と、朋美は家を出た理由を友人に語るが、 気持ちをわかってもらえないことより、 分かろうともしてもらえないことがキツかったと思う。 そういう日々で、 彼女はもう、自分の気持ちなどを確かめることも あきらめてしまったんだと思う。 そのことに、 一人になった途端、スイッチいれる。 その裏では、 あいかわらず、バタバタと、 自分のことばかり考えている夫。 大義のために生きる山岡と せせこましい夫があまりに対照的で、 悲しい。 結局彼女は家族の元に戻る。 まだまだ家庭は荒野かもしれないけど、 荒野でどう過ごすか、 朋美はちょっと自分のやり方を変えると思う。 って訳で、 朋美が思いがけずに、 私にとって魅力的な存在になっていった。 映画「私の愛した大統領」の フランクリン・ルーズベルトは、 めちゃ女ったらしだ。 妻とは別居中。 有能な秘書とは愛人関係で、 他にも浮気の相手がある。 さらに、 忙しい毎日に心のやすらぎを与えてくれる 親戚のデイジーとも関係をもつ。 ストーリーは、 このデイジーの目を通して描かれる。 女性に関しては、そういう訳なんだけど、 彼の人としての魅力は、 イギリスのジョージ6世との話し合いの場面で、 おおいに発揮されてた。 ジョージ6世は、 映画「英国王のスピーチ」で描かれた 吃音を持つ国王。 兄が、アメリカ人女性と恋愛をして 国王の座を捨て、 そのつもりではなかったのに、 国王の立場になった人だ。 ドイツとの戦いが始まる前に、 アメリカからの支援を取り付けようと 訪米したジョージ6世。 妻は何かというと兄と比べ、 馬鹿にされてないかどうかばかりに 気を取られている。 ジョージ6世は、 まだ未熟で、自信もない自分を 卑下していた。 そんな彼を2人だけでの対話に誘った ルーズベルトが、 ほんとに素敵なんだ。 まるで父親のように 温かく彼を励ます。 もし自分があなたの父親なら、 あなたのことを誇りに思うと、 最大限の褒め言葉を伝える。 ジョージは、つい弱音を吐く。 「この吃音が(辛い)」と。 すると、ルーズベルトは一喝する。 「どもりくらいなんだ! 私は小児まひで車椅子だ」(←映画の字幕のまま) と。 それをきっかけに2人は本音の話ができ、 ジョージ6世は、自分をさらけ出すことが できるようになり、 アメリカ国民からも支持された。 この映画は、デイジーと大統領のラブストーリーを主に 製作されているんだと思うけど、 私にとっては、この国王とのエピソードが心に残る。 そして、 女性に関しても、 外国の要人に対しても、 オープンであったってことは、 多分、彼の政治的手腕に大きな影響を 与えていたと思う。 そのことは、 アメリカの歴史の中で唯一の 大統領として4選した理由の中の 一部なんじゃないだろうか。 |
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author : tanizawa-k
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