「あつあつを召し上がれ」 【2011.11.30 Wednesday 06:48】 |
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これって、まさしくタイトル買いで、 選んだ後自分でおかしくなったのは、 営業的にこれをやられるとすごく嫌だから。 トンカツ屋さんで、 ひとつひとつ、 「シャキシャキのキャベツをお持ちしました」とか、 「ただいまあつあつのトンカツをあげておりますので、 お待ちください」 と言うことにしているらしいお店があるけれど、 私は少しうっとおしい気持ちになる。 スタッフの方はマニュアルでされていることなんだろうから、 責める気持ちはないけれど、 「ほっといてほしいな」って思う。 なのに、 心からの「あついうちにどうぞ」とか、 「あつあつを召し上がれ」という言葉は、 本当に染みるなあと思う。 そして、7つの短編すべてが、 すごく染みてくる話だった。 認知症を患っているバーバが、 何を口元にもっていっても口をあけてくれなくなったけど、 これだったら食べてくれるんじゃないかな?と思って 用意したかき氷に、口をあけてくれた時の喜び。 かき氷を買ってくるって、 クーラーボックスがあっても大変だけど、 そうしてあげたいと思って、 しかも自転車で実行した孫娘。 どんな薬よりバーバに効くし、 しかも、ママまで元気づけた。 そんな話。 幼い頃から父親に連れられていった中華料理屋さんに 彼女を誘い、 小さい頃から食べている料理を 彼女にふるまい、プロポーズする。 彼女には、大切な恋人を交通事故で失うという、 辛い喪失の体験がある。 男性は、家族との大切な思い出と料理を、 一緒に味わいながら 彼女にプロポーズすることを選ぶ。 彼女は本当に大切にされていることを感じる。 そんな話。 ひとつひとつの話が、 じんわりと優しい。 中でも、 結婚式の朝、 父親と、仏壇の母親に、 みそ汁を作る娘の話は、 特に好きだ。 重い病気の母親が、 自分の生きられる残りの時間を知って、 娘にみそ汁の作り方を教えた。 娘はその頃まだ幼稚園に通っていて、 台の上に昇って母親から教えられた。 前の晩に煮干しを水につけておくという準備の 段階から、すべての行程を丁寧に作っていく 本物のみそ汁。 仏壇の母親が見守る中で、 父親と二人で食べる最後の食卓を囲んで、 娘は長いこと言いたかった言葉を 父親に告げる。 それは「ありがとう」というより 「ごめんなさい」。 母親は自身の命と引き換えにして、 自分を産み落としてくれた。その後、父親は さみしい想いをずっとしてきた。 そのことを謝るのだ。 「何言ってるんだ」という柔らかい父親の声。 あ〜こんなふうに、本当にストレートに、 温かい想いを伝え合えるって、 本当に素敵。 この短編集は、 ほぼ毎日、湯船に浸かりながら、 一編ずつ読んだ。 熱いお湯にざぶんと入るのではなく、 少しぬるめのお湯にじっくり入るような、 そんな短編集。 大きな感情がわき上がることはないが、 優しさや温かさが「染みてくる」という言葉が ぴったり合うような、非常によい時間をくれた。 心がささくれだっているような時に、 何度でも読み返したいなあ。 |
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author : tanizawa-k
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