「翼」 【2011.07.31 Sunday 09:13】 |
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何週か前の毎日新聞の書評を読んでのこと。 「翼」の著者白石さんの言葉として、 「決定的な喪失は、人の心を鍛える」 というものが紹介されていて、 私も、それはホントに同じ考えで、 それで読みたくなった。 「翼」を読んでみると、 自分の真実の人生を求めてやまない男性と、 その男性から、 絶対的なパートナーだと告げられた女性の物語だった。 「真実の人生」を求める・・・つまり、 「自分探し」的なものは、私はあまり好きではない。 「結果的に自分のある部分を確認した」 というものはありだと思うけど、 最初からそれをねらってのものは、苦手だ。 困ったなと思いながら読み進めた。 なんだけど、 やはり物語の力がすごくて、 しかも、メッセージがストレートに伝わってきて、 これはこれでいいんじゃないかと思った。 著者が言いたかったこととはずれるかもしれないが、 私に伝わってきたメッセージは、 「信じる」とは、「信じられるから信じるではなく、 信じると決めて信じる」ということ。 というのは、彼が彼女を絶対的なパートナーだと信じたのは、 何か説得力のある根拠があってのことではなく、 「この人が自分のパートナーだ」と分かった瞬間に、 そう信じることを決めたと、 私からみると思えたからだ。 信じるってのは、 信じるって決めることだと思う。 信じられるから信じるってのは、 信じているんじゃないのかも・・・と思う。 信じられたら信じようとするのは、 その時点で疑っている。 疑っているから、 信じるための根拠を探そうとする。 以前、まだ若かった頃、 多分私は恋愛するたびに、 それを繰り返した。 「私のこと、愛してる?」と訊く時は、 そのことを不安に思っている時だったし、 恋人が飲みに出かける時に、 誰とどこで飲んでいるか知りたいのは、 不安を解消してほしくてだった。 今その必要がないし、 それは私が、彼を信じると決めたからだ。 信じるって決めると、 信じられる理由を探したり、 信じるための言葉をもらったりする必要がなくなる。 この小説を読んでいる途中で、 ジュリア・ロバーツの 「食べて、祈って、恋をして」という映画を レンタルしてきて見た。 ストーリー自体はおいといて、 最後に彼女がたどりついた考えは、 とてもいいと思った。 それは 「バランスをとって生きていくことは大事。 でも、多少のバランスのくずれも含めて、 バランスがとれていけばいい」 のようなものだったと思う。 私は、その通りだと思った。 この「翼」という小説でいうと、 「バランスのくずれ」を、 もう一刻も受け入れることが できなくなってしまったのが、 彼だと思おう。 もちろん、そういう人生もある。 それは、自分が絶対だと信じた相手に、 自分の想いを受け入れてもらえなかったことだ。 それが彼の決定的な喪失。 彼女は、 自分が彼に決定的な喪失感を与えてしまったことに気づき、 それほどまでに自分を必要とした人を失ったことが、 決定的な喪失になったと思う。 しかし、決定的な喪失は、人の心を鍛える。 だとしたら、 彼女がこれからどう生きていくのか、 そこからが読みたいと思った。 しかし、小説はそこで終わる。 途中、彼の言葉の中に、 「結局、人間は智恵や理性では絶対に行動しないからね。 例外なく感情のままに行動する」 と言う場面がある。 これはほっとけない言葉だ。 確かの行動を起こす時の動機のひとつに 感情もある。 だが、どういう感情がわいたとしても、 感情は感情として受け止めて、 智恵と理性で行動するのが人間ではないのか! と思う。 著者は帯に 「いよいよ通念を拭うときだと 確信しています」 と書いている。 この「通念」とは、何を意味しているのかな? もし、「感情はわくが、智恵や理性で行動を 抑制し、社会生活を上手に送っていくこと」を 通念というのなら、 それを拭う時なんだろうか? 「長年一緒に暮らしてきた妻に、 『自分の本当のパートナーがみつかったから、 離婚したい』 と告げ、 『OKしてくれなかったら死ぬ』ってのは、 それはダメだよ」 ってことが通念だとしたら、 それを拭っていいのかな? それは「拭う」ものではなく、 努力するものではないだろうか? そういう想いを抱いた自分を、 なんとか分かってもらおうと、 言葉を尽くしたり、行動で示したり。 こう考えるのは、 私がいろいろなことに捕われているからで、 著者の白石さんは、もうそういうことを 通り越しているのかもしれないが、 私は、 ちょっとくずれたことも含めてバランスを とって生きていくことを取りたいな って思う。 ・・・ってなふうに、 頭の中に、波を起こしてくれたって意味で、 読んでよかったと思う。 |
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author : tanizawa-k
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